科学館からやってきた揚力実験装置

Nidec様より寄贈していただきました
つまみを回すと、ファンが回って風を吹き出します。その風を受けて、細い軸に通された羽根がふわりと持ち上がります。風を弱めると、羽根はすっと下がります。目の前で風の強さを決めているのは、ほかでもない見学者自身の指先です。この装置は、もともと科学館で展示されていたものです。ニデック株式会社から本校にご寄贈いただきました。装置にはファンモータ、風の強さを変えるつまみ、そして風を受けて上下する羽根が組み込まれています。見学者はつまみを操作して、風の強さと羽根の動きの関係を自分で確かめることができます。
装置には、子ども向けのキャプションが添えられています。羽根の上面が丸く、下面が平らであること、風が上面を速く、下面をゆっくり通ること、そして「飛行機の原理と同じだね」という一文です。最後は、風を起こすファンモータがテレビやパソコン、自動車など身近なところで使われていることを伝えて締めくくられています。
風を「つかまえる」
羽根は、風が強くなるほど高く持ち上がります。見ているだけでは「なぜ浮くのか」は見えません。けれども、つまみを少しずつ回し、羽根が浮き始める瞬間を探してみると、風の強さと浮く力のあいだに何かの関係があることが、手の感覚として伝わってきます。
キャプションを「読む」
キャプションは、羽根の形と風の速さの違いで、浮く理由を説明しています。この説明を読んだうえで、もう一度装置を見てみましょう。すると、いくつかの問いが浮かんできます。
?1 羽根の下が平らでなく、上と同じように丸かったら、羽根は浮かないのだろうか?
?2 飛行機は、宙返りの途中で逆さまになっても飛び続けられるが、そのとき丸い面は下を向いているのではないか?
?3 紙飛行機の翼は、上も下も平らです。それでも飛ぶのはなぜだろう?
実は、飛行機の翼がなぜ浮くのかは、専門家のあいだでも説明の仕方が議論されてきたテーマです。キャプションの説明は、その入口の一つです。入口から先へ進むと、羽根の「傾き」や、羽根が風の向きを変えることなど、新しい手がかりが見えてきます。本校でこの装置を展示するのは、答えを覚えてもらうためではありません。「あれ?」と立ち止まってもらうためです。説明文に疑問を持つことは、説明文を書いた人への敬意でもあり、研ぎ澄まさえた本物の説明だからこそ、その先を考える足場になるのです。
ハンズ・オンの意味
科学館の展示に「見て、さわって、確かめる」手法が広がったのは、ここ数十年のことです。イギリスで博物館教育に携わってきたティム・コールトンは、その著書の序文で、自身が担当していた教育プログラムを振り返っています。コールトンは、来館者が展示を眺めるだけで終わらせず、参加できる仕組みを博物館は用意すべきだと考えました。その思いを、来館者が「単に参観するのではなく参加できる」ことと表現しています(コールトン 2000)。
この装置は、まさにその考え方を形にしたものだと考えます。つまみを回すのは見学者自身です。風の強さを決めるのも、羽根が浮く瞬間を見届けるのも、見学者自身です。説明を読んで終わるのではなく、自分の手で現象を起こし、確かめ、ときには説明を疑ってみる。そこに、ハンズ・オン展示の教育的な価値があるのです。技術科は、つくることを通して学ぶ教科です。この装置は、ものを「つくる」前の段階で、ものに「はたらきかける」経験を生徒に与えてくれます。
本校に来ていただき、つまみを回して、羽根を浮かせてみてください。そして、キャプションを読んで、もう一度羽根を見てください。「本当にそうかな?」と思えたら、それがこの展示のいちばんの成果です。
謝辞
本装置は、ニデック株式会社よりご寄贈いただきました。ニデックは京都市南区に本社を置く総合モーターメーカーです。同社は子どもたちの科学教育に力を注いでおり、京都府内の小中学校で、モータと地球環境について学ぶ授業やコイルモータづくりの実習を行ってきました。また、京都市の「京都モノづくりの殿堂」にもブースを設け、子どもたちがモータのはたらきを体験できる展示を提供されています。かつて科学館で来館者を迎えていたこの装置が、今度は本校の生徒たちの前で風を起こします。展示の場が変わっても、「やってみて、確かめる」という装置の使命は変わりません。貴重な装置をお譲りくださったニデック株式会社の皆さまに、心より感謝申し上げます。
参考文献
・ティム・コールトン著,染川香澄・芦谷美奈子・井島真知・竹内有理・徳永喜昭訳『ハンズ・オンとこれからの博物館 ― インタラクティブ系博物館・科学館に学ぶ理念と経営』東海大学出版会,2000年〈平成12年〉,ISBN 978-4-486-01499-7
・ニデック株式会社「次世代育成」 https://www.nidec.com/jp/sustainability/community/education/
・京都市教育委員会「京都モノづくりの殿堂・工房学習」 https://www.city.kyoto.lg.jp/kyoiku/page/0000091773.html
(技術科 沼田 和也)






