音の通り道をデザインする

五つのスピーカーエンクロージャー
廊下に並ぶ五つの木の箱があります。どれも正面に丸いスピーカーがひとつ付いています。けれど同じ曲を鳴らしてみると、低音のふくらみも、音の広がりも、少しずつ違って聴こえます。違うのは、箱のかたちであり、それはスピーカーの囲み方です。
スピーカーは後ろにも音を出している
スピーカーのコーン(振動板)が前に動くと、前の空気は押され、後ろの空気は引っぱられます。つまりスピーカーは、前と後ろに「正反対の音」を同時に出しています。後ろの音が前に回り込むと、前の音と打ち消し合い、とくに低音がやせてしまいます。そこで、後ろの音をどう扱うかを決めるのが「エンクロージャー(箱)」の設計です。五つの形式は、後ろの音を「遠ざける」「閉じ込める」「反転して生かす」「遠回りさせて生かす」という、それぞれ違う答えを出しています。
・平面バッフル:板で遠ざける
一枚の板にスピーカーを取り付けただけの、いちばん素朴な形です。板があることで後ろの音が前に回り込むまでの距離がのび、打ち消し合いが減ります。板が大きいほど、低い音まで残ります。この考えを突きつめると、部屋の壁そのものを巨大な板として使う「壁掛け(壁埋め込み)スピーカー」につながります。
・後面開放型:板を折りたたんで箱にする
平面バッフルの板を折り曲げて、背中の開いた箱にした形です。大きな板を持ち歩かなくても、似たはたらきが得られます。ギターアンプでよく見かける形で、背面からも音が出て部屋全体に広がるのが特徴です。
・密閉型:閉じ込めて引き締める
箱を完全にふさぎ、後ろの音を中に閉じ込めます。箱の中の空気がばねのようにコーンを押し返すため、低音はなだらかに小さくなりますが、輪郭のはっきりした引き締まった音になります。
・バスレフ型:共鳴で低音を足す
箱に穴(ポート)をあけた形です。穴の中の空気と箱の中の空気が共鳴し、ある低い音の範囲では、後ろの音が向きを変えて前の音を助けます。小さな箱でも低音を出しやすく、市販のスピーカーに多く見られる形式です。
・バックロードホーン型:遠回りさせて響かせる
後ろの音を、少しずつ広がる長い通路(ホーン)に通してから外へ出します。通路を折りたたんで箱に収めているので、断面は巻貝のようにも見えます。ホーンは空気を効率よく動かすため、通路を抜けてくる低音が力強くなります。
このとき、前から直接届く音と、通路を抜けてくる音には、わずかな時間差が生まれます。音は1秒間に約340 m進むことから、例えば通路の長さが2 mなら、遅れは約6ミリ秒(0.006秒)です。人の耳は、この程度の遅れ(数ミリ秒程度)であれば、2つの音を1つにまとめて聞く傾向があります(融合)。しかし、遅れが大きくなりすぎると、今度は別々の音(エコー)として分かれて聞こえはじめます(Brown et al. 2014)。
「箱」の工夫の100年
現在のスピーカーの基本形である、コーンを電磁力で動かす方式は、1925年にアメリカのライスとケロッグが発表しました。その後、後ろの音を生かすバスレフ型が1930年代はじめにベル研究所のスーラスによって特許化され、1954年(昭和29年)にはヴィルチャーが密閉箱の空気をばねとして使う方式を製品化しました(Beranek & Mellow, 2019)。
日本では、オーディオ評論家の長岡鉄男が多くのバックロードホーン型を設計・発表し、木の板からスピーカーを自作する文化を広げました(長岡, 1991)。エンクロージャーは、工場でしかつくれない部品ではなく、板と工具があれば自分で設計し、試し、聞き比べることのできる「技術」なのです。
現在のスピーカーの基本形である、コーンを電磁力で動かす方式は、1925年にアメリカのライスとケロッグが発表しました〔要確認〕。その後、後ろの音を生かすバスレフ型が1930年代はじめにベル研究所のスーラスによって特許化され〔要確認〕、1954年〈昭和29年〉にはヴィルチャーが密閉箱の空気をばねとして使う方式を製品化しました〔要確認〕。
日本では、オーディオ評論家の長岡鉄男が多くのバックロードホーン型を設計・発表し、木の板からスピーカーを自作する文化を広げました〔要確認〕。エンクロージャーは、工場でしかつくれない部品ではなく、板と工具があれば自分で設計し、試し、聞き比べることのできる「技術」なのです。
「ズレ」で思うこと
いちばん面白かったのはバックロードホーンでした。前からの音と、長い通路を抜けてくる音の「少しのズレ」で、音が立体的に、深く聞こえる気がします。しかしそのズレがすぎると心地よさがなくなる。ちょうどいいズレがあるように感じます。まるで、3Dメガネのようだと思いました。左右の目に少しずつ違う像を見せ、そのズレを脳が1つにまとめることで奥行きを生みます。ズレの種類(時間と位置)は違いますが、「少しのズレを脳がまとめると豊かになり、ズレすぎるとまとまらない」という点はよく似ています。
音楽でも、1拍をきっちり2つや4つに割るリズムより、3つに割るシャッフルの方が人間らしく感じてしまいます。
五つの箱を同じ曲で聞き比べてみてください。どの箱の音がいちばん好きと感じるでしょうか?(技術科 沼田 和也)
参考文献
・Brown, A. D., Stecker, G. C., & Tollin, D. J. (2014). The precedence effect in sound localization. Journal of the Association for Research in Otolaryngology, 16(1), 1–28. https://doi.org/10.1007/s10162-014-0496-2
・Beranek, L. L., & Mellow, T. J. (2019). Acoustics: Sound fields, transducers and vibration (2nd ed.). Academic Press.
・長岡 鉄男 (著), 『新装版 世界でただひとつ自分だけの手作りスピーカーを作る』, 講談社, 2004/9/17
・スピーカーの「バスレフ型」や「密閉型」とはどんなもの? エンクロージャーの種類と違いを専門家が解説【前編】 – Audio-Technica https://www.audio-technica.co.jp/always-listening/articles/speaker-enclosure-01/
・ピーカーの「バスレフ型」や「密閉型」とはどんなもの? エンクロージャーの種類と違いを専門家が解説【後編】 – Audio-Technica https://www.audio-technica.co.jp/always-listening/articles/speaker-enclosure-01/






