旋盤にみる道具から機械への飛躍

真鍮を削る手でたどる技術史
技術室に並ぶ5台の旋盤。回転する真鍮にバイト(刃物)が触れるとれると、金色の削りくずが細い螺旋を描いてくるくると落ちていきます。削っているのは人の手ではなく、ハンドルの先にある刃物です。この「刃物が人の手を離れた」という一点にこそ、道具から機械への大きな飛躍がありました。旋盤を回す体験は、産業革命からIoT(モノのインターネット)まで続く技術の歴史を、身体でたどることでもあります。
手を離れた刃物
道具と機械を分ける基準は、動力が人力かエンジンかではありません。刃物が人の手から離れ、機構(からくり)の中に組み込まれたかどうかにあります。1797年、モーズレーがつくった旋盤は、刃物を「送り台」(刃物を支えて動かす台)に固定し、それをハンドルで左右に動かして削る仕組みを完成させました。それまで職人の「手と勘と熟練」に頼っていた加工が、機構の動きに置きかわった瞬間です。同志社中学校の旋盤でも、バイト(金属を削る刃物)はあなたの手のひらではなく、ハンドルの先にあります。
「機械をつくる機械」の誕生
旋盤のように、機械の部品をつくり出す機械を「工作機械」(機械をつくる機械)と呼びます。送り台のおかげで、どんな固い金属でも、同じ形を必要な精度で何度でも削れるようになりました。この正確さが、蒸気機関などの精密な部品づくりを支え、機械で工業を動かす時代、産業革命の土台となりました。旋盤そのものは古く、紀元前3世紀のエジプトの壁面にも、ろくろ細工に似たレリーフが残されているという記録があります。しかし「刃物が手を離れる」という飛躍が起きたのは、ずっとあとのことでした。
自動化、そしてIoTへ
刃物が機構に入ると、次は機構そのものを自動で動かす段階が来ます。1948年、アメリカのフォード社で高度に自動化された工場を指して「オートメーション」という言葉が生まれました。やがて工作機械はコンピュータで制御されるようになり、プログラムに新しい作業を教えこめば、職人技に近い加工を量産できるようになります。そして現在は、工場の機械がインターネットにつながり、データをやり取りしながら動く時代へと進んでいます。
なぜ、旋盤が大事なのか?
工場の機械がネットワークでつながる今の産業のかたちは、2011年にドイツが打ち出した「インダストリー4.0」に代表され、日本では「第4次産業革命」とも呼ばれます(総務省『平成30年版 情報通信白書』)。手で削る、機械が削る、プログラムが削る、ネットワークが工場を動かすというように、技術発展はこの道すじを進んできました。その最初の一歩が、旋盤で刃物が手を離れた瞬間です。中学生が旋盤を回す体験は、この長い道すじの「原点」に自分の手で触れることに他なりません。プログラムやインターネットがなぜ「今」につながっているのかを、頭ではなく身体でイメージするための、大きな手がかりになります。
同志社中学校の技術室では、真鍮という金属を旋盤で削り、自分がデザインしたグリップのねじ回し(ドライバー)を削り出すことができます。金色の削りくずの向こう側には、二百年余りの技術史の世界が広がっています。本校の教室にきて旋盤をぜひご覧ください。(技術科 沼田 和也)
参考文献
・河野義顕・小池一清・三浦基弘・田中喜美ほか『技術科のとびら』日本書籍、1989年、pp.74–77、162–163、172–173
・総務省『平成30年版 情報通信白書』「インダストリー4.0とは」(https://www.soumu.go.jp/johotsusintokei/whitepaper/ja/h30/html/nd135210.html
2026/7/30閲覧)






