建築模型「光の教会」

白い模型と、覗くジオラマにみる建築模型コンセプト
陳列棚には、二つの「光の教会」の建築模型が並んでいます。白い光の教会と、色のついた光の教会です。片方は真っ白なスチレンボードだけでできた線のシャープな建築模型。もう片方は、木が植えられ、椅子まで並んだB4サイズのジオラマです。その小さなのぞき窓に目を近づけると、正面にすっと光の十字架が浮かびます。
展示されている二つの建築模型は、生徒が制作したもので、安藤忠雄氏が設計した「光の教会」です。光の教会は、1989年に大阪府茨木市に竣工した茨木春日丘教会の礼拝堂で、コンクリート打ち放しの壁に十字の開口を切り、そこから差しこむ光そのものを主役にした建築として知られています。同じ一つの建物を、二人の生徒がまったく違う方法で模型にしました。並べて見ると、「模型でものを理解する」やり方が一通りではないことが見えてきます。
白でかたちを突きつめる——伊藤さんの模型
伊藤さんの模型は、白いスチレンボードだけで組み上げられています。色も装飾も足さず、面と線だけで勝負する作りです。角はまっすぐで、平面の美しさが際立ちます。実物のもつ張りつめた雰囲気が、そのまま縮んだような外観に仕上がっています。塗装をしないので、寸法のわずかな狂いや接着のはみ出しはそのまま表に出てしまうリスクを背負って見事に完成させた仕上がりです。白一色でここまで「本物らしさ」を出すには、切り出しと組み立ての正確さが欠かせません。かたちそのものと正面から向き合った模型だといえます。
塗って、植えて、覗く——村松さんの模型
村松さんの模型は、鉄道模型のジオラマに近い作り方です。30cmほどと、鉄道模型のジオラマとしては大きめで、壁はコンクリートの灰色に塗装され、まわりには木も植えられています。内部も作りこまれ、礼拝堂には椅子が並びます。実物でも床と椅子は足場板を黒く塗ったもので、その簡素さが光と影の対比を強めています。さらに小さなのぞき窓があり、目を近づけると正面に光の十字架が見えます。ここにスマートフォンのレンズを逆さに差しこんで撮り、少し色を調整すると、まるで実際の礼拝堂に立っているような一枚になります。写真集に載っていそうな、静かで力強い光の写真です。
二つを並べて分かること
白い伊藤さんの模型は「かたち」を、色のついた村松さんの模型は「体験」を突きつめています。正確に写しとることと、その場に立った気持ちまで作りこむこと。向いている方向は逆ですが、どちらも本物の建築を自分の手で理解しようとした結果です。二つを並べたときにいちばん面白いのは、同じ建物からこれほど違う模型が生まれる、という事実そのものかもしれません。
歴史・文化的意味
光の教会は、兵庫の「風の教会」、北海道の「水の教会」と並ぶ安藤忠雄の“教会三部作”の一つです。限られた予算のなかで装飾を削ぎ落とし、光だけを頼りに祈りの空間をつくった建築として、世界的に知られています。安藤は光を、単なる明るさではなく、空間をかたちづくる一つの素材として扱いました。その考えは、図面や写真を眺めるだけではなかなか実感できません。実際に壁を立て、開口を切り、内部に光を通してみる——模型をつくる手の作業そのものが、設計者が何を考えていたのかに近づく道になります。ここにある二つの模型は、その道を別々のルートでたどった記録でもあります。
まずはこの二つの模型で、光の十字架をのぞいてみてください。あなたなら、どちらのやり方で「光の教会」をつくってみたいですか?(技術科 沼田 和也)
参考文献
平松剛『光の教会 安藤忠雄の現場』建築資料研究社、2000
安藤忠雄『建築を語る』東京大学出版会、1999
国立新美術館 編『安藤忠雄展―挑戦―』(図録)、2017






