建設用3Dプリンター(モルタル)

型枠なしで“印刷”する、土木の最前線
教材展示スペースには、灰色のコンクリート(モルタル)の三角柱がある。3つ組み合わせると、同志社のエンブレムになります。近づいてよく見ると、表面に細い横縞がり、まるでミルフィーユのように積み重なった「層」の跡です。これは型に流し込んで固めたものではありません。ノズルからモルタルを絞り出し、一層ずつ積み上げて“印刷”した、高さ約50cmのコンクリート(モルタル)です。
このエンブレムを出力したのは、建設用の3Dプリンターで、設計データをもとにモルタル(セメントに砂などを混ぜたもの)を層状に積み上げて作られた立体です。京都の吉村建設工業と、建設用3Dプリンターを開発する株式会社Polyuse(ポリウス)が、本校生徒の設計した図案をもとに製作してくれました。現在、DT教材博物館に展示されています。天板を載せれば座れる「同志社チェア」になる設計です。この技術は、コンクリートを“型なしで積む”という”土木の常識をくつがえす技術”なのです。
・型枠がいらない
従来のコンクリート工事では、つくりたい形に合わせて「型枠」を組み、そこにコンクリートを流し込みます。型枠の組み立てには、熟練した技術と時間が必要でした。建設用3Dプリンターは、ノズル(射出口)からモルタルを押し出し、層を重ねて形をつくるため、この型枠が要りません。特別な技能がなくても操作でき、曲線のような複雑な形も、設計データさえあれば造形できます。展示のエンブレムに見える横縞は、その「一層ずつ積んだ跡」です。
・人手と工期を大きく減らす
型枠と足場を組む作業がなくなる分、工事にかかる日数も人手も大きく減らせます。京都市の道路で擁壁(土を支える壁)をつくった例では、工期を3分の1以下に縮められたと報告されています。人手不足に悩む建設業にとって、大きな意味を持ちます。
・運んでもよい、その場で刷ってもよい
3Dプリンター施工には、離れた場所でつくって運ぶ方法(オフサイト)、現場のすぐ近くでつくる方法(ニアサイト)、そして施工する場所で直接印刷する方法(オンサイト)があります。吉村建設工業とPolyuseは、京都市内の道路工事で、この「現場で直接印刷する」施工に日本で初めて挑んだ先駆者です。近年は、国内最大級の規模で擁壁づくりに3Dプリンターを使うまでになっています。
・歴史・文化的意味
コンクリートの施工のやり方は、100年ほど大きく変わってこなかったといわれます。いっぽうで日本の建設業は、働く人が減り、高齢化も進んでいます。型枠に頼らず、特別な技能がなくてもつくれる3Dプリンターは、その課題への一つの答えとして注目され、国の新技術データベース(NETIS)でも推奨技術に選ばれました。100年をこえる歴史をもつ吉村建設工業と、2019年に生まれたばかりのPolyuse——長い経験と新しい技術が手を組み、ものづくりの常識を更新しようとしています。
表面の横縞を、指でそっとなぞってみてください。コンクリートが「流された」のではなく「積まれた」ことが、手ざわりでわかるはずです。長く変わらなかったものづくりは……これからどう変わっていくのでしょうか。
本展示のエンブレムは、株式会社Polyuseの建設用3Dプリンターを用い、吉村建設工業株式会社のご協力のもとで製作されました。図案は本校生徒が設計したものです。土木の最前線に触れる機会をいただいたことに感謝します。(技術科 沼田 和也)
参考文献
・【ポリウスと吉村建設工業】京都市で重力式擁壁を直接印刷/国内最大級のプリンター施工」建設通信新聞Digital、2025年11月 https://www.kensetsunews.com/web-kan/1146169 (閲覧日:2026年7月29日)
・大京真也「建設用3Dプリンタを用いたコンクリート構造物の施工について」『近畿地方整備局研究発表会論文集(Web)』2023、2023年、イノベーションⅠ No.05
国土交通省「新技術情報提供システム(NETIS)建設用3Dプリンティング(KT-230174-A)」https://www.netis.mlit.go.jp/netis/pubsearch/details?regNo=KT-230174 (閲覧日:2026年7月29日)






