今を生きる10代にしかできない発想
コマとコマの行間を埋める若い感性
4週に渡って4回開催された「マンガで学ぶ小説入門講座」、1回目は「起承転結と描写について」、2回目は「視点人物について」、3回目は「伏線とその回収」をテーマに講義を、最終週にはプロの小説家・木下昌輝さんをお迎えし、生徒たちの作品の講評をしていただきました。
マンガといっても4コママンガ。1コマに登場人物のキャラクター性と関係性、場面背景などあらゆる情報が詰まっています。小説には「行間」という評論上の言葉がありますが、4コママンガのコマからコマへの展開は行間そのもの。マンガの行間を想像で埋めていきオチまで持っていけるかどうかという実験を中学生の若々しい感性でさせてもらった、そんな講座でした。
計3回の提出課題を振り返ってみて、1番驚かされたのは1回目の課題でした。「全部ちょうだい」というお嬢様と靴屋さんのやり取りのマンガをどう解釈するかというものでしたが、翌週が祝日で1週飛ばすことになっていたので、生徒たちもじっくり取り組めたせいか、斜め上をいく発想がゴロゴロと出てきました。4コマ目で2人が年老いてから馴れ初めを振り返っているオチなのですが、ここに出てくるお爺さんを3人目の登場人物として兄や死んだ夫に設定した作品がありました。
小説には視点人物を設定する必要があります。そのため2回目の講座のテーマを「視点人物について」にしたのですが、ちょっとちょっと、教える前からわかっていたのかい、皆さん? そう言いたくなるような、お嬢様視点で描かれた作品もあれば靴屋視点で書かれた作品もありました。
3回目の講座は、4コマ目をあえてつけなていないマンガのオチまで考えてくださいという課題の合評を中心とした講座。崖から落ちそうな女友達の関係をどのように描くか、「女子力」というマンガのタイトルをどう解釈するかが鍵と考えた作品が多かったです。
視点人物を、どのように設定するのか考えに考え抜いた作品もありました。インスタLIVEを見ている視聴者視点という神視点は、今を生きる10代にしかできない発想でした。
最終回の課題はテーマを設定せず、800字以内の小説で自由に創作してくださいというものでしたが、出てきた作品を読んでみて、これがリアルな中学生の表現だと実感しました。作家の木下さんも打ち合わせの段階で「これはテーマを設定しておいた方がよかったかも」と感想をおっしゃったくらいで。
木下さんは時代小説家で、講談師の方とコラボをされたりします。落語のオチの付け方なんかも小説を書く参考にしています。
中学生が自由に小説を書くとポエムみたいになるようで、オチに心血を注ぐというよりかは、一文一文から内なる傷や叫びを感じとってほしいと書いたものが多かったのです。
提出作品にそんな所感を持ちながら臨んだ11/24、最初は木下昌輝さんとのフリートークから。私から直木賞の発表を待っているときの気持ちや、1冊の本を書き上げるのにどれくらい資料を読むのかなど、プロの小説家としてやっていく大変さを知ってもらおうと、あえて具体的な質問を向けてみました。
ところが生徒から出てきた質問は、「小説家になろうと思ったきっかけは何ですか」といったその道を選んだ動機。この質問は2回出てきたので、生徒にとって1番の関心事だったのでしょう。
質問コーナーを終えたあとは、本題の合評へ。
木下さんが指摘したところを、蛍光ペンで引いたりポインターで示したりしながら進めていきました。「設定を長々と書くより、いきなりドラマから始めてみてください」とか「ここでは門が鍵になってくるので、どんな門なのか描写してみましょう」など、具体的なアドバイスをしてくださる木下さん。生徒たちも学校の先生からかけられる言葉との違いを、肌で感じ取っていたことでしょう。
全体の合評が済んでからも生徒からの質問は出てきました。
「自信を持つにはどうすればいいのか」
「どういう時が1番楽しいですか」
好きなことを職業にできるのは自信をつけた結果であり、1番楽しいことをしているのだと思ったのでしょうか。
木下さんに憧れの気持ちを持ってくれたことは、何かを目指し頑張ろうと思う萌芽が出てきたということ。プロの小説家との対話は、熱心に課題に取り組んだ生徒ほど大きな宝物になったことでしょう。(石川)