CFRPの秘密

巻きすが教えてくれるものづくりの知恵
黒く光る、織り目の見える板。手にすると軽いのに、力を込めてもたわみません。15mm×100mm×500mm のこの板は、CFRP(炭素繊維強化プラスチック)です。すぐ隣には、寿司を巻く竹の巻きすと、ホームセンターで見かけるベニヤ板が並んでいます。まるで別物に見える三つですが、実は同じ「秘密」でできています。
概要
CFRP は、髪の毛より細い炭素の繊維を、樹脂で固めた材料です。繊維を一方向にそろえると、その向きにはとても強い一方、直角の向きには弱くなります。そこで、向きを変えながら何枚も重ねて接着します。この「積層」という工夫が、板の秘密です。同じ工夫は、巻きすを重ねたときにも、ベニヤ板の中にも隠れています。この展示では、それを手で確かめられます。
本体
一枚には、弱い向きがあります。竹の巻きすを1枚、竹ひごに沿った向きに曲げようとしても、なかなか曲がりません。ところが90度ずらすと、くるりと丸まります。向きによって強さがまるで違うという性質を異方性(いほうせい:方向によって性質が変わること)といいます。繊維でできたものの多くは、この性質をもっています。木の板が木目に沿って割れやすいのも、同じ理由です。
向きを変えて、重ねる
次に、巻きすを向きを変えて3枚ほど重ね、束ねて持ってみてください。どの向きに曲げようとしても、驚くほど硬く感じるはずです。1枚のときにあった「弱い向き」が、見つからなくなります。CFRP の板も、繊維の向きを変えながら何層も重ねて作られています。
強くなるのではなく、弱い向きが消える
ここで大切なのは、重ねることで一番強い向きがさらに強くなるわけではない、という点です。むしろ、一方向だけにそろえた材料に比べると、最も強い向きの性能はいくらか下がります。その代わり、どの向きにも大きな弱点がなくなります。専門的には、これを擬似等方性(ぎじとうほうせい:どの向きにもほぼ同じ性質になること)と呼びます。「強くする」より「弱い向きを消す」というほうが、実際に近い言い方です。
接着して、一枚の板にする
巻きすを重ねただけでは、一枚一枚がずれて動きます。ベニヤ板や CFRP が本当に硬いのは、層と層を接着剤や樹脂でしっかり貼り合わせ、全体が一枚の板として働くからです。巻きすで「向きを変える効果」を感じ、ベニヤ板で「接着した効果」を確かめる——この二つがそろって、はじめて板の強さの理由がわかります。
歴史・文化的意味
向きを変えて重ねる工夫は、決して新しいものではありません。薄い単板(ベニヤ)を、繊維方向が互いにほぼ直角になるように奇数枚を貼り合わせた板を、合板と呼びます。無垢(むく)の木材と違い、合板は方向による強さの差が小さく、反りや割れが起きにくいため、コンクリートの型枠や壁・床の下地材として広く使われてきました。同じ「弱い向きを消す」考え方が、いまでは航空機や自動車の軽量化を支える CFRP につながっています。寿司を巻くための巻きすもまた、この原理を昔から形にしていた道具だ、と見ることができます。
展示台の巻きすを、ぜひ手に取ってみてください。1枚で曲げたときと、向きを変えて3枚重ねたとき、なぜこれほど変わるのか、手で確かめてください。(技術科 沼田 和也)






