京都の伝統である織物を軸にして
織物の完成から感じる達成感
前回の記事では、織り機を作り、自分の手で布を織る活動を通じて、生徒たちが体験に基づく探究の授業をどのように体験したかをご紹介しました。今回は、その活動を通じて得られた学びや気づきに焦点を当て、生徒たちの成長や新たに生まれた探究の種を紹介します。
「織物の幅がどんどん狭まってしまうのはなぜだろう?」、「糸が絡まってしまう原因はどこにあるのか?」、活動中に多くの生徒が抱えたこのような疑問は、問題解決のプロセスを通じて次第にわかってきます。例えば、織り機のテンション(張り具合)に注目する生徒がいました。均一なテンションを維持することに注意を払わなくてはならないのです。。彼らは試行錯誤を重ねるうちに、同じくらいの力で引っ張るという作業に慣れ、うまくそろえられるようになりました。これも一つの気づきであり、実践的知識を得ることができたといえます。しかしながら、もう少し考えをすすめると「どうすればもっと効率的に織れるか?」という問いが生まれます。そこでまたさらなる、道具の改良や作業プロセスの見直し工夫といった工学的な視点へとつながってきます。繊維の科学にとどまらず道具(治具)の発明や製造工程の見直しという事柄を実践的に獲得したといえます。
また、完成した織物を手にしたとき、生徒たちは一様に達成感に満ちた表情を見せてくれます。ある生徒はこう言います。
「最初は織るのが難しくて、面倒くさいなと思った。でも、友達と話し合ったり先生に相談したりするうちに、少しずつコツがわかってきました。完成したときは、今までで一番うれしかったです。」
この一つの小さな体験から様々な疑問が生まれてきます。
・材質の比較(シルク、ウール、コットンなど)
・織物の強度や質感と市場の関係
・天然素材と合成繊維を使った織物の比較と評価方法
・耐久性や環境への影響
・未来の織物製造においてロボットやAIがどのような役割?
・京都の伝統的な織物工場は環境保護の観点から評価できるのか?
生徒たちは手を動かし、失敗を重ねながらも、自分の力で課題を乗り越える過程で得た興味や疑問は、さらなる深く究めていく学びへの原動力となっています。本校では、生徒たちが自ら学び、考え、行動する力を育む教育を続けたいと考えます。中学の探究授業で生徒たちの成長と新たな発見をしてほしいと願います。(技術科 沼田和也)