「分解ってこんなにわくわくするんや!」
本物のSTEAM教育とは先人の知恵と工夫をトレースすることから
私たちの目の前にある製品は高度な技術で作られており、専門知識がなければ理解が難しいことが多いです。しかし、ものづくりの原理を理解するためには、ものを作る活動だけでなく分解にも注目することが重要です。日本の学校では、この分解という発想がまだ少ないですが、使えなくなった家電を分解することで、生徒たちは多くの疑問を持ちます。これは、新しいアイデアや価値を見つけるための鍵です。
たとえば、500円のスピーカーボックスを例に取ると、その内部を開けてみれば驚くべき工夫が施されていることに驚くことになります。「この材質この音響を、この価格で実現しているのか!とてもかなわない!」と感嘆することでしょう。製品は機能性、美しさ、価格のバランスによって成り立っています。質のよい材料を集めれば当然音質も変わりますが、それと引き換えに市場に出せない価格になります。市場に出せる価格から逆算し、製品の仕様を考えればたちまち大きな壁にぶち当たります。蓋をあけた瞬間、技術者の方々が乗り越えてきた工夫と知恵、苦労が目の中に飛び込んできて、たくさんの試行錯誤の結晶として「この突起があるんだろうな」とか「この厚さなんだろうな」と思考がぐるぐる回りだすのです。
学校の授業では、製作方法を直線的に教えることが多いですが、生徒たちの学びは必ずしも直線的ではありません。既存の製品を分解することで、先人たちの知恵と工夫に触れ、探究する機会があります。これは、ものづくりの核心に迫ることであり、温故知新の精神に則り、既存の製品から多くを学ぶことができます。
先日、生徒たちはSTEAM教育の一環として、様々な機器の分解作業に熱心に取り組みました。キーボード、ディスプレイ、パソコンなど、生徒たちはそれぞれ興味のある機器を選び、ドライバーを使って丁寧に分解していました。部品について質問すると、
「これは電源回りの調整をする基盤ではないか」
といった具合に、既に頭に入っている知識を活用して迅速に答える姿が見られました。生徒たちは互いに気づきを共有し、推測を交わしながら活発な討論を展開しました。中には、丁寧に分解したパーツを美しく並べ、Exploratoriumに展示されるオブジェを彷彿させてくれました。このような経験から、生徒たちの学びにおいては、一方向の直線的なプロセスだけでなく、先人の知恵に学び、興味を深める探究的な学びにも注目していくことの重要性を感じましたし、生徒の「分解ってこんなにわくわくするんや!」というつぶやきの奥深さに感動しました。そして、起業家教育やSTEAM教育が立つ土台には、こういったエンジニア的なセンスが必要なんだと実感しました。
また、本校では、技術教育を通じてより実践的なエンジニアリングマインドセットの獲得を重視しています。知識のインプットだけでなく、現実的な課題にむけた活動を意識して展開しています。例えば「時間内にダイソン掃除機を分析し評価せよ!」です。ダイソンから秘密資料とサンプル商品をレンタルし、限られた時間内に分解と再組立を行い、製品の長所の仕組みと欠点を分析する取り組みです。生徒たちは集中して作業に取り組みました。生徒たちは、掃除機の構造や機械の仕組みについて学び、分解と組立の過程で新たな発見や驚きを経験しました。彼らは、機械の複雑さや、小さな部品一つ一つが重要であることを理解し、実際に手を動かすことでエンジニアリングに対する興味や理解を深めました。(技術科 沼田和也)