旅で出会いたい建築
出番・持ち味・個性を発揮できる自由研究
同志社中学校では、「自由研究」というプログラムを通して、生徒のみなさんの「探究」心に火がついています。その中の一人を紹介します。
現在3年生の佐伯さんは、1年生時、コロナ禍で考えた「理想の家」MY IDEAL HOUSEに取り組みました。「あったらいいな」というイメージを膨らませ、それを模型にされました。
そして2年生では白川郷に関心持たれ、その模型づくりに取り組まれました。しかし、その時のテーマは「旅で出会いたい建築」と設定され、模型づくりに至るまでのプロセスに佐伯さんの学びの足あとが十分に描かれていました。「学びの足あと」と言ってしまうと何か軽すぎる感じがしています。佐伯さんの礼拝のお話や『きささげ』の原稿も含めて筆者が感じることは、それは佐伯さんがそのプロジェクトで歩いてきた過程そのものの中に流れている野性的な学びの欲求というか、なにか動的に流れる力づよさを感じます。調べ、フィールドワーク、聴き取り、共感、総括、模型作り、デフォルメのアイデア、困難の克服、、、プロセスの言葉だけを並べてしまうと、また筆者の言葉が浅く感じてしまいます。
佐伯さんがお話になった内容をぜひごらんください。
こんにちは、私は3年G組の佐伯育子です。今日は私の自由研究についてお話しします。私は昨年の自由研究で「旅で出会いたい建築」というテーマで、世界遺産に登録されたことでも有名な白川郷の合掌造りについて研究し、白川郷の代表的な合掌造り家屋である「旧遠山家住宅」の模型を作りました。まずはこの研究のきっかけについてお話ししたいと思います。それは1年生の時の自由研究にさかのぼります。
私たちの学年が中学校に入学した2年前の2020年の4月は、新型コロナウィルス感染拡大に伴い、多くの国や地域で外出自粛要請があり、多くの人々が自宅で過ごさなければならない時でした。そのような今まで経験したことのないような不安な中で始まった中学校生活でしたが、自宅からオンライン授業を受けるという、全く新しい形での授業スタイルに少しずつ慣れていき、そのうち、先生方やクラスの皆とZoomで繋がることで生まれる連帯感や、自宅で過ごす「おうち時間」が増えたことで、家族や愛犬とのコミュニケーションの時間も増え、今までよりも家族や人の繋がりの大切さを感じることができました。コロナで失ったものも確かにありましたが、withコロナだから得られたことも少なくはなかったのです。
また、その年の6月には沼田先生から声をかけていただき、インドのニューデリーの学生さんたちによる「オンライン模擬国連」に自宅からZoomで参加しました。実際にインドの学校の先生方や学生の方々とパソコンの画面上でしたが、一日中繋がり、会議の最後には英語でスピーチさせていただくという貴重な機会もありました。これは「学びプロジェクト」の1つで、「参加するのは難しいのでは?」とも思いましたが、コロナ禍で不安な時だったからこそ、世界の同世代の人たちと繋がることで勇気が湧きましたし、自信にもなりました。
このように、自宅で過ごす時間が長くなったことで様々なことを初めて経験する一方で、改めて「安心できる家」「居心地の良い家」の大切さを感じました。そして、災害やこのような感染症拡大防止のための自粛生活においても「居心地がよく、安心できる」家づくりについて考えを深めたいと思うようになりました。さらに、「災害大国」とも言える日本で住む私たちにとって「安全な家づくり」もとても大切なことだと考えました。
そういうわけで、1年生の時の自由研究では「安全で居心地のよい理想の家」について研究し、それを模型で表現したいと思いました。1年生の時の自由研究のテーマは「理想の家」です。研究を始める前から「模型」を作りたいと思っていましたが、それには私が考える「理想の家」の「平面図」を書くことから始めました。平面図を書いていると、ちょうどタイミングよく、沼田先生の「透視図法なんちゃって検定」の「学びプロジェクト」に参加できたので、透視図にも挑戦しました。
製作過程では「平面図」を模型で「立体化」できたことがとても嬉しくて、どんどん建築の世界に惹かれていくようになりました。この研究では、「家も新しい生活様式に合わせて変化することが求められている」ということにも気付きました。この自由研究が完成した頃には、「私たちも今まで当たり前だったことを当たり前と感じることなく、常に変化を恐れず、その変化に適応できるような柔軟性を持てる人になりたい」と感じていました。
さて、2年生になった2021年も依然としてコロナが収束する気配もありませんでした。
小さな頃から、家族が好きなハワイやアメリカに行くことが多かったのですが、中学生になってからは国内旅行さえも ゆったりと行くこともできず、旅に出かけたい思いは高まっていきました。ちょうどそんな頃の昨年5月から、オンラインで 「建築・学びプロジェクト」が始まりました。すべてのプログラムに参加することはできませんでしたが、建築の専門家の方々からリレートークのように建築についての興味深いお話を伺い、質問もできる、という「ぜいたくなプログラム」でした。私はその中で特に「旅と建築」というテーマに心惹かれました。
そのときも、コロナ禍で自由に旅に出かけられない状況が続いていましたが、「もし、この状況で旅に出かけることができたら、 旅先でその土地や文化や歴史に根付く建築に出会えると旅はもっと豊かになる」と感じるようになっていました。そこで、以前から訪れてみたかった世界遺産白川郷合掌造りについて理解を深め、自由な発想で合掌造りの建築模型を作ってみたいと思いました。このコロナ禍で出かけることも難しいと思いましたが、調べているうちに 「『旅で出会いたい建築』としたからには、実際に旅をして合掌造の建築物に出会いたい」という思いが強くなりました。そして、ついに夏休みに家族と感染対策をしながら、現地に出向くことにしました。
皆さんも一度は見たことのあると思いますが、急勾配で茅葺き屋根を特徴とする住居が皆同じ方向に向いて立ち並ぶ ミニチュアの世界の景色が広がる「白川郷」に訪れました。しかし、私が最終的に模型を作ったのは、意外にもあの有名な白川郷から少し離れている、御母衣というひっそりとした場所にある大きな合掌造りの家の「旧遠山家住宅」です。 旅をしている間に出会った立派な合掌造りの家屋との出会いは、まさにタイトルにもあるように「旅で出会いたい建築」の「出会い」だったのです。旧遠山家住宅では、現在、この家屋を管理されている新谷まどかさんとの出会いもあり、まるで新谷さんが私たちを出迎えるために待っていてくださっていたかのようにも思えました。
新谷さんがとても親切に合掌造りの構造や歴史についてくわしく教えてくださったおかげで、私は自分なりの「こだわり」を持って模型を作ることができました。コロナ禍でなかなか自由に出かけられることが少ない中、自分の興味があるものを見つけ出し、実際に現地に訪れ、建築や現地の人々の温かさに出会い、自分の肌で感じ、体験すること。それが自分にとってより豊かな旅にするための最も重要なポイントだと実感しました。
今日、私の話を聞いて、白川郷や旧遠山家住宅に関して興味をもってくださった方はぜひ昨年の「きささげ」に掲載されている私の研究「旅で出会いたい建築」を読んでくださればとても嬉しいです。
昨年夏に訪れた時には、新谷さんはコロナ禍で国内外からの観光客が激減していることを心配されていました。「1人でも多くの人に遠山家について知っていただき、足を運んでもらうことがこの豊かな建築を守っていくことに繋がる」とおっしゃっていたのが今でも印象に残っています。私自身、この自由研究で学んだ白川の人々が大切に守っている「結(ゆい)」という「共同体の助け合いの精神」、つまり、白川郷での「連帯、助け合い、人のつながりの大切さ」を、この長く続くコロナ禍だからこそ発信する必要があるのではないか?と考えています。それはSDGsの11番の「住み続けられるまちづくりに」という目標に通じると思います。そして、互いに支え合う人々の新しいつながりが「コロナ禍で必要な助け合い」=「結の心」ではないかということです。これからコロナが収束して自由に国内外を旅することができればその旅先でさまざまな建築に出会い、今までよりももっと豊かな旅を続けていきたいと思います。
実は今年のゴールデンウィークに石川県の金沢へ1泊2日の旅行に出かけました。旅行中も私の頭の中は「建築」という「キーワード」が常に頭の中にありました。自分でもちょっと驚いているのですが、「旧武家屋敷跡 野村家」や「金沢21世紀美術館」の建物、また「世界で最も美しい駅14選」の6位に選ばれたJR金沢駅前にすごい迫力で建っている「鼓門」に圧倒され、模型や駅のジオラマもじっくり見学してきました。これは明らかに自由研究で変化した私の姿です。この「鼓門」にかかるアルミ合金の日本最大級の駅前の美しいドームは「おもてなしドーム」と呼ばれており、雨や雪の多い金沢を訪れた人々にそっと傘を差し出す金沢の人々の優しさやもてなしの心を表現するものとして建設された、ということを知り、この駅の建築のコンセプトに胸を打たれました。「旅で出会いたい建築」への思いは これからも続いていくと思いますし、最近の私は、道を歩いていても乗り物に乗っていても「気になる建築」がたくさん目に飛びこんできます。「今年の自由研究は何にしょうか」と、今もワクワクしながら、考えているところです。そして、きっと将来、この自由研究は中学校時代の大切な思い出となることと思います。