ジオラマをつくる
探究とクリエティビティの融合
3年生の村山さんは、ジオラマづくりの面白さと本物を感じる感性を体得された。ジオラマに興味を持ち、あるときジオラマ作家の荒木 智/情景師アラーキーさんの本に出合う。アラーキーさんは、少年サンデーからの依頼で制作した漫画「だがしかし」の主人公の店「シカダ駄菓子」のジオラマ作品はとても有名だ。村山さんによれば、「漫画の駄菓子屋を立体化するにあたり、日本家屋の構造から考え直し、店の中の駄菓子まで繊細に制
作されている作品。非常に精巧に作られており、まさに古い昔ながらの駄菓子屋という感じだ。木造の建物に少し黄ばんだ看板、店の外に置いてあるアイスの売り場やガチャガチャ。私は実際にこのような駄菓子屋を見たことはないが、子供達が小銭を握り締め少ない予算の中で一生懸命に駄菓子を選んでいる様子が頭の中に浮かんでくる。」との惚れ込んでいる。そして村山さんが、アラーキーさんに質問をするとすごく丁寧に作品作りのことを教えていただいたとのことだった。クリエティビティに火がついた村山さんは、自身の作品テーマを、”劇場版「名探偵コナン」の「業火の向日葵」で登場するレイクロック美術館とその周辺のジオラマ”に決める。村山さんは自身のテーマ(モチーフ)を以下のように述べている。
「この映画は、主人公江戸川コナンのライバルである怪盗キッドからの予告状に隠された『ひまわり』を巡る真実を描いた作品。物語のカギとなる『ひまわり』は世界的に有名なゴッホが描いたとされる作品で、世界各地の美術館で保管され、展示されている。『業火の向日葵』ではそんな世界中の『ひまわり』を集め、さらに第二次世界大戦中に消失したと言われていた『二枚目のひまわり』、別名『芦屋のひまわり』が発見される。芦屋のひまわりを含めた全ての『ひまわり』を集め『日本に憧れたひまわり展』を開催することになる。その会場が今回制作したレイクロック美術館なのだ。うずまき状の美術館や給水塔、円形のラインが取り入れられたホテルなど独特なフォルムが印象的だ。幸いこの映画の建物の設定や細かなつくりまでが描かれている本を持っていたためある程度は想像することができた。残念ながら森の木の種類などは分からなかったが、おそらく湖は近くの崖、または美術館下の鍾乳洞からできているのだろう。美術館はとても独特な形をしているが、はっきりとしたモデルを見つけることはできなかった。強いて上げるならば大塚国際美術館が山の上の方に建っていると言う点くらいだろうか。」
分析と感受性が実に生き生きしている村山さんだ。
スタイロフォームで土台をつくり、スポンジで森を表現など数々の学びが作品に行かされている。詳細は村山さんの資料をごらんいただきたい。
製作を終えた村山さんのReflectionもすばらしい。
「目標だったジオラマの楽しさ、奥深さ、難しさを体験し感じることは沢山できたと思っている。なにもない状態から完成を予想し制作していくということは大変難しいことである。それでも思っていたよりもうまくいった時、頑張った後などには必ず達成感というものがあると感じた。また、あらためてプロのジオラマ作家である荒木さんの技術力の高さを感じた。実際の景色に限らず架空の世界の景色まで背景を調べたりして実在するものは実査に見にいったり長さを測ったりして想像をする。架空の建物でも何かモデルになったものはあるはずだと探し想像する。しかし、どれだけ情報を集めてもそれだけで上手いリアルなジオラマが制作できるわけではないのだ。その頭の中で思い浮かんだものを実際に再現することができる。その技術がやはりプロなのだろうと思った。
最後に、人生で初めてジオラマというものを制作したのだが、やはり自分が納得できるほどの良いものを作ることはできなかった。今から思うと、後々のことを考えてこういったことをしておくべきだった、軽い気持ちでこれをすべきではなかった、と悔やまれる点は沢山あるのだが、ジオラマの楽しさはとても理解できたと感じている。美術や技術系の趣味はあまりなく、画材屋へいくこともほとんどなかったため、ジオラマの材料のために画材屋へ行き必要なのはこれだろうか、あれだろうかと店内を見て回ることができた。そのことが私からするととても新鮮でジオラマを制作すると決めていなければ味わえなかった感覚だったのだろうと思う。
誰しもはじめはうまくいかないもの。繰り返し挑戦していくことでコツを掴み技術を習得して自分なりのこだわりを持つようになる。荒木さんがジオラマ制作は神のように俯瞰して見ているような気分になるとおっしゃっていたが、まさにその通りだと思った。まるで自分が世界を作っているかのような気持ちにさせてくれるのがジオラマの魅力なのだ。もちろん立体物のため材料もそれなりに必要になってくるし時間もかかる。だが、機会があればまたジオラマ制作に挑戦してみたいと心から思う。」
村山さんのこの気づきに心をうたれない人はいないのではないだろうか。何もないところから挑戦し、実際にインタビューしたり、プロのように感じようと努力したり、作るなかで学んだは計り知れないものがある。なんとなく文献でなぞって終わる人も世間では多いと思うが、本校では村山さんのように体当たりで新しい挑戦をする方がたくさんいる。私たち教員こそ、村山さんの挑戦心に学ぶべきだと思う。(沼田)