更新し続けられる問いをもつために
生徒は未来からの留学生
「先生は自由研究はしないんですか?」
以前、ある生徒からこのような質問をいただきました。まさにこの生徒の質問は教育界の核心をついていると思いました。生徒に対して「探究」とか「問い」の重要性を押し付けるだけでなく、教員自身が学問や仕事に対して自ら問を立てて、世の中に発信していかなくてはならない時代であると感じていたからです。私自身を振り返ったとき、ささやかながら学会誌へ寄稿したり、共同執筆をして出版させていただいたりしています。しかし、教員という仕事を通して自分なりに問いを立て、それを専門の方々がご覧になるであろう場所で文章を書くという作業は、予想以上にしんどい作業です。しかしその分、学ぶことも多いですし、何より自分自身が学びに対して謙虚になれる貴重な苦しみであると思っています。
この度、学文社から『新技術科の授業を創る』を出版させていただきました。この書籍は、教員志望の学生達のための大学の教職課程で使われることを目的として、書かれています。全国の教員(大学、中高)と共に共同執筆し、私は第二部の一章にて拙稿を提出させていただきました。お読みいただけると幸いです。
学文社 『新技術科の授業を創る』 https://www.gakubunsha.com/book/b528217.html
Amazon サイト http://urx.space/SI8l
分担執筆させていただいた内容を含めて第二部を要約させていただくと、教員が教員として育ち方について書かれているということになります。
1「何のために学ぶのか」という問いに向き合って ~学外の方々とのつながりを大切にして生徒から学ぶ~
本来的な学びとは何か、学びはあなたにとって何なのかという根源的な問いを失っている状態とどうやって対峙していくかが、教員としての本来的な「問い」ということになろうかと思います。
2 社会資本、インフラの現実的な諸問題をとおして、我々が直面している社会的課題とは何かを明らかにしようとしています。
3 教員として大切にしたいこと (拙稿の一部を引用させていただきます)
生徒は未来からの留学生 〜私たちが直面している課題に一緒に取り組んでいきたい〜
今更ながら、橋、道路、鉄道といった社会資本としてのインフラは、実に奥深く広いものであることを私は実感している。授業においてはブリッジコンテストの取組にて「橋」を出発点にこそするが、様々な分野に繋がっている。設計の場面での数学的シミュレーション、コンクリートの化学的な開発、不断の試行錯誤を伴う材料研究やより適した工法の選択に関わる地質調査、風や川の流れの調査、生物調査のように、橋の設計や建設は分野の科学や技術と関連している。加えて日本の橋の機能美など、様々な現実につながっている。橋梁建設のための集会を数多く開きながら住民理解のための活動、建設後にも保守管理の技術が必要になってくる。さらに、老朽化が進むインフラを維持・管理するだけの予算が足りないという課題に直面している。私たちは真剣に未来の社会資本に向き合わなければならない時期に来ている。守りのテクノロジーの時代がそこにきている。次代を担う生徒たちとともに当事者意識を持って考えていかなければならないのである。近年、教科横断的学習やPBL(Project Based Learning)への関心のから巷ではSTEM/STEAM(Science, Technology, Engineering and Mathematics / Science, Technology, Engineering and Applied Mathematics / Science, Technology, Engineering, Art and Mathematics)というキーワードが注目されているが、技術科で取り組んでいる授業“社会資本を自分ごととしてとらえるブリッジコンテスト”はまさにその的を得ている学びではないかと感じている。
社会資本のあり方を考えれば考えるほど、様々な学問的知識が必要となる。また、思想や哲学的な考え方をより深く理解することも必要である。さらに、ある種の判断の場面ではより多くの思考の引き出しも必要とされる。これからの時代を生きる生徒たちは、膨れ上がる補修予算、老朽化の問題、人口減がもたらす諸問題などに向き合って行かなければならない。こうした事態の中にあって、目の前の生徒たちに対して、決まり決まった事柄を一方通行に流し込むような態度、すべての答えを教師が握っているかのような授業はありえない。生徒が直面する未来社会における諸課題とは、私たち世代がすでに知り得ているやり方ではとうてい太刀打ちできないものであろう。
私は、生徒たちは未来からやってきた留学生であると考えるようにしている。生徒たちがこれから先に生きる社会は、私の世代が再生産されることではない。自然と人間の関係によって引き起こされる人類的問題はすでに地球規模のレンジになっている。これまで感じたり培ってきた価値観や方法は当てはまらない。未来からやってきた留学生に何をしてやることができるのかを共に考える姿勢を持ちたい。未来を生きる生徒たちと共に探究し学び合い、当事者意識を共有しながら未来社会へアプローチしていきたい。」
(沼田)