未来の自分に住まいを贈る授業

「川の流れる家」が教えてくれたこと
21年後、いまの中学生2年生たちは35歳になります。そのとき自分はどんな暮らしをして、どんな家に住んでいるのか?同志社中学校の技術科探究では、その未来の自分を「施主」に見立て、健康をテーマにした住まいを設計する授業に取り組みました。コンセプトを描くだけでなく、放課後の時間も使って模型まで作り上げた生徒もいます。なかでも印象に残ったのが、松岡さんの「川の流れる家」です。テーマは「ワイルド系」で、家の中に川を流し、白い素材で波を表し、魚が泳ぐという、まるで水族館のような空間です。川の手前には海を思わせる砂を敷き、庭は素足で歩けるように芝生にされていました。
おもしろいのは、その出発点です。我々ならまず「住宅とは何か」から考えはじめるところを、松岡さんは「こうだったら面白い」ち発想から始めています。家の中に川を流すなんて、普通は思いつきませんが、このとらわれのない自由な発想こそが、設計のいちばんの原動力になっていて、すごいなと思いました。もちろん、面白さだけでは家になりません。川を流せば、今度は「向こう岸へどう渡るのか」という現実にぶつかります。松岡さんはそこに三本の橋を架けました。ただのデザインとしてではなく、住宅の「廊下」としても働くように考えたのです。遊び心と暮らしの機能という、本来ならぶつかり合う二つを、高い次元でひとつにつないでみせました。
今回の授業には、外部から建築の専門家(類設計室)を招き、専門家の目で講評してもらいました。松岡さんの提案に贈られたのは、「面白く強いプラン」という言葉でした。とりわけ評価されたのが、「橋を廊下と掛け合わせた発想で、普通の家にはない要素を新しく持ち込む視点は、設計においてとても大切だ、既存の枠にとらわれずに挑戦する姿勢が素晴らしい」とのコメントをいただきました。
こうした提案は、一度で出てきたわけではありません。多くの生徒たちは放課後も、模型製作にやってきて作品に手を入れ、A3のワークシートに考えの道筋を修正してきました。専門家からの「風の流れはどうなる?」「光はどこから入る?」という鋭い問いにも、その場で自分の案を組み替えながら答えていました。うまくいかないところを見つけ、考え、また直すという思考を自分の中繰り返したからこそ、専門家の指摘にも対応できたのだと思います。
「健康」のとらえ方も、一人ひとり違いました。
・二十年後はAIやロボットが家事を担うと考え、専用の作業部屋を設けて、浮いた時間を読書に充てた生徒。
・あえて廊下を長くして、毎日の暮らしの中で歩く距離を稼ごうとした生徒。
・妹の動きをよく観察して玄関の近くにトイレを置き、猫が家じゅうを行き来できるキャットウォークを自分で作った生徒もいました。
生徒たちは、それぞれのアプローチで解決策を提案してくれていました。
正解を探すのではなく、「自分はどう生きたいか」を問い、描く。松岡さんの「川の流れる家」に表れていたような、自由で力強い思考の芽を、これからも支えていきたいと思います。21年後、彼らが本当に35歳になったとき、この授業で描いた夢がどんな形で実を結んでいるのか楽しみです。
技術科の時間は、ただ「ものを作る」だけでもありませんし、論文の書き方を学ぶだけの時間でもありません。施主、つまり未来の自分の願いをくみ取り、その期待を超える空間を届けようとする。探究の目的を、自分の思いと目の前の教材との耐えることのない不断のやり取りの中で対話を深めていく時間なのです。その意味でも建築というテーマの価値が明らかになってきたと思っています。(技術科 沼田 和也)






