手の中で光る磨きの証
「C(炭素)がちょっと混じるだけでこんなにちがうん?!」
眞田先生の最初の授業では、針金をハンマーで平らに潰すという体験を取り入れています。元素記号を覚えて、終わりではありません。鉄、鋼、ステンレス、銅、黄銅など日常生活で使われている様々な金属をハンマーでたたきながら、硬さ・摩擦熱・ハンマーの技能・金属加工の騒音など、五感をとおしてその「金属(純金属と合金)」を体験していきます。鉄(Fe)にすこしの炭素(C)、少しのニッケル(Ni)が混じるだけで、鋼になったりステンレスになったりします。そして、ハンマーでたたけば全く違った硬さになり、それはハンマーの手の感触を通して体に入ってきます。
「Cがちょっと入っただけなん?!」「鋼はもう無理!」「黄銅は金みたい」「うるさい!」「たたいたら信じられへんくらい熱くなる!」
アプリで元素記号を覚えただけでは得られない生きた知が五感を通して体の中に入ってきます。生活の中で持っている「金属は硬い」ものであるという認識は、実物の経験によって再定義され、「やわらかい・硬い」「ねばっこい」「ヒビがはいりやすい」など、金属に対する認識が一段とふかいものになるのです。硬いと思っていたものがやわらかく感じるような体験は、定義の更新を促し、そうやって「概念」として習得した知識は、丸暗記で覚えたこととはまるで違うものなのです。眞田先生の授業を通して、知識観のアップデートの必要性を感じました。
授業では、真鍮(黄銅)を旋盤で切削しオリジナルデザインの取っ手を作り、鋼を鍛造してねじ回しの先端部を形成し、手工具で雄ねじと雌ねじを切り接合する。棒ヤスリ、耐水ペーパー、研磨剤をつかって研磨すれば、自分の顔が映る鏡のようになる。究極に磨かれた真鍮と鋼は、自信の研磨の努力の証であり、うっとりできる瞬間です。本日は、その作品の価値を評価しあう展覧会です。評価基準は、体験を通したものだけが感じられる評価軸をつくり、お互いが採点しあう。校内Good Design賞の選考場面でもあります。教師が一方的に評価するのではなく、「評価軸」や「評価項目」をどのように設定すべきかを、生徒自身が考え、良いものとは何かを考えるきっかけとしています。
体を通して得た「知」と実際の体験を経た「知」が詰まった作品は、生徒一人ひとりの労がつまった宝物だと思います。
Good Design賞 https://www.g-mark.org/
「社会の課題に対する取り組みとしての内容、将来に向けた提案性や完成度の高さなど、総合的な観点から、グッドデザイン賞審査委員会が今年度もっとも優れていると評価したデザインに贈られます。」とあるように入賞することも素晴らしいですが、その「評価」軸の中に、またはその「評価」軸の設定の過程のなかに、人々の願いや知識が詰まっていると思います。
(沼田)