読書案内
授業では、ものづくりを中心にして様々な学問にアプローチします。PBL(Project Based Learning)やAL(Active learning)、DT(Design Thinking)、STEM/STEAM(Science, Technology, Engineering Art/Applied Math, Math)などは近年の流行の言葉ですが、本校では昔から取り組んできた内容でもあります。本物のものづくり、何のためのものづくりなのかを正面から真摯に考えれば考えるほど、知識やスキルだけでなく語学力や哲学、共感力も必要になってきます。教科として読書を推奨しています。2018年にお知らせした内容ではありますが、その一部を紹介させていただきます。(沼田)
◆書名 『私たちのデザイン1 デザインへのまなざし ―豊かに生きるための思考術 』
著者名 早川 克美
出版社 幻冬舎
この本は大学のテキストとして出版されたものである。テキストと聞くと“かたい”イメージとともに“わかりにくい”という個人的な経験が私の頭を占領し、斜めに構えた態度をとってしまいがちになるのだが、本書は違った。最初から引き込まれる。
「産業革命は大量生産、大量消費との関係においてデザインを定義づけることに成功しました。そして戦後の高度経済成長はあらゆる産業の効率化を促進したのです。デザインもしかり、土木、建築、インテリア、プロダクト、グラフィックというように細かく職能として分かれ定義されたのです。各々の職のうは専門領域として確立され進化を遂げました・・・・」
歴史的に「デザイン」の定義を俯瞰しながら、現代的な意味でのデザインにアプローチしていく序章は、私にとってはとてもスッキリとさせてくれるものだった。「デザイン」という言葉はたいして意味も考えずに使われることが多く、「アート」と「デザイン」をほぼ同じ意味で使っている人が多いのもの残念ながら事実である。そういう方にはぜひ本書をお薦めする。
また近年、ビジネス界だけでなく学校教育関係者から注目されている「デザイン思考」というキーワードであるが、中高生のためのイベント「MonoCoto Innovation!」という企画が盛り上がりを見せており、ますますこのイベントの発展と、学校教育に対するデザイン思考の深化は言うまでもない。
本書でとくにおもしろいなと思ったのは、私流に解釈させていただくと”ユーザー中心主義的デザイン手法”と”デザイナー中心主義的デザイン手法”の掛け合いみたいな様子が描かれており、著者の解説手法が実にユニークで、「定義」が動的に生き生きと写ってみえるところであった。デザインがもっているそもそもの語源を横目にみながら、様々な場面で「デザイン」と付き合っていきたいものである。ものづくりやコトづくり中心的に担う教科であるならば、本書はぜひとも脇に置いておきたい一冊となることは間違いないし、定義の解釈でこんなに楽しめるのかと正直感動した。
スタンフォード大学で発展してきたDesign Thinkingを学ぼうとするビジネスマンは多く、学内にあるd.schoolで行われるワークショップでは、目をむくような高額な参加費にも関わらず、すぐに締め切られるという人気ぶりだ。本書でも紹介されており、わかりやすく学べるのも利点だ。
後半の実践編では、京都の料理職人の方の話もありとても面白く、様々な角度から楽しめる一冊だ。
JMOOCの講座の特別番組で著者の早川さんが取り上げられています。
◆書名『鉄は魔法つかい: 命と地球をはぐくむ「鉄」物語』
著者名 畠山 重篤
出版社 小学館
金属製のドライバーを作る経験はなかなかできないと思うが、そのプロセスのなかで様々なことに気づかされるのである。小さな針金ひとつをハンマーでつぶすという体験でさえ、驚くほど熱くなることや、つんざくようなハンマーの音、針金がハンマーを通じて変形していく感触を感じることができるようになるという感覚、さまざまな気づきを与えてくれる。そして銅、真鍮、はんだ、鋼、ステンレス、アルミニウム、鉄(不純物多い針金)それぞれに個性があり、硬さ一つとっても様々で、「針金=かたい」という先入観が覆される貴重な体験なのだ。そして、人類が硬さを測定するために様々なスケールを作ってきた歴史にも興味を抱かせてくれる。ビッカース、ロックウェル、ブリネル、他にまだまだたくさんある。種類の多さもまた、人類の試行錯誤の歴史と感じることができれば、これまた奥深く興味深いのだ。
鋼とは鉄に炭素が含まれており、私流の言い方で表現させてもらえればそれは「工作材料の王様」である。赤くなるまで熱して、すぐに冷ましてみれば硬くなり、ゆっくり覚ませば柔らかくなまくらになる。つまり熱処理プロセスによって目的に合った硬さや特性を制御できるのが最大の魅力だ。その鋼を棒ヤスリで削り、ペーパーで磨いていくと鏡のような光沢の放つのだが、そのとき“鉄のにおい”をいつも感じる。血液のにおいまでとは言わないが、それに近い匂いを感じる時があり、親しみを感じるのだ。
ドライバーづくりと丁寧に付き合っていく経験をする前は、鉄と言えば無機質なもので、工事現場の鉄骨、車のシャーシ、包丁、釘、鍋、そういった単なる「物(ブツ)」、「硬いやつ」というイメージしかなかった。しかし今ではなぜか親しみを感じるのだ。この本書では、さらに私の体験や想像をこえるものを教えてくれた。驚きというか著者の視点とか記述の仕方とか非常に学びの多い読書となった。『鉄は魔法使い:命と地球を育む「鉄」物語』・・なんと興味をそそられるタイトルではないだろうか。
地球の自然のサイクルの中で生命が生きるには鉄が鍵となっていて、森が鉄の共有のもとになっているのだそうだ。山に木を植えていく運動も、それは豊かな海を取り戻すこととつながっているというから驚きだ。その要となっているのが「鉄」ということになるが、それは本書を手にしてから、じっくり楽しんでいただきたいと思う。タイトルにあるとおり「命」の源とまでの認識に至ったとき、なるほど!と嬉しくなってしまう。「魔法」とやらを解き明かして楽しんで欲しい。
◆書名 『台湾の若者を知りたい』
著者名 水野俊平
出版社 岩波書店
「近年、東アジアの国際情勢は、緊張感が高まり、変化が激しくなってきている。そんな中、サブカルチャーなどの交流だけで、台湾の人々がいつまでも『親日』であり続けるとはかぎらない」とは拓殖大学の李教授の言葉。私も同感する。
台湾は東日本大震災後に多額の寄付をしてくれたり、日本に対してとても良く思ってくださっている国で親日の方が多いとされている。しかし、私はもっともっと台湾(に限らずですが)の人々と交流をすべきであり、国境を越えた友達をつくるべきだと考えている。地球温暖化、災害、病気など人類的な課題は、国境をこえグローバルで地球規模の視点から課題にアプローチしていく動きが必要となっている。それは誰もが感じていることであろう。ではいかにして足元からの第一歩つくるか、どう踏み出すのかと考えたとき、それは国境を越えた友達と共通の課題を認識し、解決策へアプローチしていく経験を学校教育に落とし込むことではないだろうかと考えた。アポイントメントなしで台湾を歩きながら、交流できる学校へアタックしていくなかで、淡江高級中学と出会い、交流を始めることになった。その時、偶然にもその学校は同志社大学と深い歴史とつながりがあることを初めて知った。淡江の生徒や先生たちは同志社のことをよくご存じでいらして、日本にあこがれているようなことを多くの先生方がおっしゃっていた。逆に私は淡江高級中学のことを知らず、非常に申し訳ない気持ちになった。その時の反省が、私の台湾の歴史と中国語の勉強をスタートさせたと言っても過言ではない。
この本のとても素晴らしいという点をもう一つ紹介させてほしい。
本書は、今年(2018)出版されたものであり、今の若者へのインタビューがたくさん挿入されている。歴史・文化など一般的には”かたい
”イメージのものではなく、将来の夢や恋愛、試験の乗り切り方、休日の過ごし方など、非常にありふれた日常を題材にして取材されている。私の台湾での経験と絡め合わせても、本書から等身大の台湾の学生、今を生きる若者の姿が浮き上がってくる。読後、非常に親近感を感じる。
国境をこえて、地球規模の課題を解決することが当たり前になってくるであろうこれからの時代に、本書は一つのきっかけを与えてくれる、
そしてその肩ひじ張らないグローバルなマインドセットを感じ取らせてくれるものであると思った。